銀の魔術師と捕縛の糸

episode-春逢- 03


ぞわっとした。



変わらずに東屋でぼうっとしていたが、香葵は突然不穏な気配を感じた。
――何だろう。
――声?
何となくだが突然、香葵はそう思った。
聞いたことがある気がした。
戻ろう、香葵はそう思って座面から立った。
来た道を辿る。別に辿らなくても、木々からのぞく屋敷を目指せばどこかに出るはずなのだが。
何故か、この声を知っているような気がした。
それはたくさんある。
――何を言ってるんだ?
それは屋敷に近づけば近づくほど強くなる。
――何かいる?
それも、霊的なものだと思った。
――何だろう。



「あ、親父。お帰り」
仕事から上がってきたのか、スーツ姿の健一と廊下で行きあった。
「おお。その恰好じゃ寒いんじゃないか」
「寒いよ。――ねえ」
香葵は声その他諸々の違和感を健一に言った。
「……いや、わからん」
健一は首をかしげた。それなら夏葵に聞いてみようか。

そう思った瞬間、ざわりと血が騒いだ。
手首がひきつれるような感覚。
突然脳裏に闇が広がった。そして鮮やか過ぎる、赤。
何となく感じていた声が、気配が、突然身体の中で明瞭になる。

これは――――唄だ。



在る有るある存る魂魄に刻まれた歌唄唱詩謳声聲喉裂けんばかりに奏で響け調狂い壊れ毀れ叫び呪い咒い繋ぎ現と暗い闇い昏い冥い夢幻無限無間霞む翳む遙か悠か遼か遠い処所攸處の命生命戒め縛め警め誡め力主権能力で力主権能力を其の手弖テに入れるナド汝而爾ハ易ク安ク成セル為セル故由妖怪ノ頂戴顛ニ立チ希稀ナル者モノ物ノ頭魁首垂レ跪ク神代上世ノ魂魄持ツ類比偶稀希ナル心意ノ子児仔ヨ今未時季満チ充チ此処ニ在ル有ルアル存ル魂魄ニ刻マレ暗ク闇ク昏ク冥ク夢幻無限無間霞ミ翳ミ遙カ悠カ遼カ遠ク在ル有ルアル存ル処所攸處ノ命生命戒メ縛メ警メ誡メ力主権能力デ力主権能力其ヲテ手弖てニ持ツ保ツ有ツ事ナド汝而爾ハ易ク安ク成セル為セル故由妖怪ノ頂戴顛トシテ今未我吾私僕朕俺唔ノ歌唄唱詩謳声聲聞キ聴キ訊キ利キ全テ総テ凡テ知リ識リ食ライ喰ライ血肉ニ刻ミ雕ミ呪イ咒イ今未声聲喉裂ル迄歌唄唱詩謳奏デ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響?響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ響ケ今未時季満チル充チル赤紅朱緋キ空穹宙ノ下元許血ノ魂魄ノ術



声が、聲が、混じり合って――うねる。
唄が、歌が、詩が、響き合って――重なる。

強烈な目眩がした。
そして、それに被さるように、重ねるようにして――叫びが聞こえた。