銀の魔術師と捕縛の糸

19.声と怒りは宙に舞い 02
今朝、利が登校すると、封筒に入ったこれが下駄箱に入っていた。
最初はピンとこなかったが、夏葵から「他言無用」と言われた電話のあれだ。
夏葵は「必ず持って歩け。そしてあかりと行動しろ。はぐれるな」とその時言った。
まさか、と思うが夏葵なら結界を張る機能くらい簡単に与えるだろう。

それが今、あかりの手に渡ってしまった。
「あんたの趣味じゃないわよね。あ、ってことは夏葵の仕業ね」
たしかに、鎖には小さくルーンやら何やら刻み込まれている。
まじまじと見たわけではないのに判別するあたり、あかりの嗅覚恐るべしと言える。
あれがあかりの手に渡ってどうなるかは分からないが、分からないが壊されるのは目に見えている。
こんの夏葵の馬鹿とかなんとか悪態をつき、あかりが扉を蹴り飛ばすように足を掛けた。
「何のつもりで黙って――」



え、と思わず声がこぼれた。
鎖が切れてしまった。
クロスが落ちる。
微かな光を拾って、きらきらと軌跡が回転する。
キン、と小気味のいい音を立ててクロスが床を叩いた。

がたん、と音を立てて扉に隙間が生まれた。

開いた。開いてしまった。
完全に予想外で――予想をはるかに超える光景が広がった。

濃密な霧が、雪崩をうって侵入してくる。

「なにコ」
レ、

霧に包まれると、ふわりと体が浮き上がった。
視界は白く塗りつぶされ、何も見えなくなった。