銀の魔術師と捕縛の糸

18.祭りと戦は血に沈み 03
怜奈が霧の中に消える。その先に何があるかなんて把握はしてないが、夜霧が相手をしてくれるはずだ。
あとは、2本のナイフだけ回収しておくように言う。
「土蜘蛛は」
夜霧が一斉に首をめぐらせて右手に鼻面を向ける。
どんどんと雷が落ちる音がする。
勝つ自信はあるが、何かが他所で起こるような予感がある。
まずは一つ、先に片づけるべきだろう。
夏葵は側に寄ってきた首をまた足場に、飛んだ。



小田原は焦っていた。
霧で術式の無効化どころか、怜奈や蜘蛛との接続が切れた。
状況は完全に夏葵に有利。
重力偏向で捕まえて、クモの糸で封じるつもりだったのに。
小田原は、ゆらゆらと揺れながらこちらの様子を見ているそれを睨んだ。
いくつあるのか知らないが、さっきから2,3の鼻面がずっと様子をうかがっているのだ。
こちらが動こうとすると妨害して、突き飛ばされる。
ぐるぐると低く唸っている。
ふと、それらが遠のいた。
何だ、何が来る。
そう思って霧に隠れて行く鼻面をきつく睨むと、背にきつい衝撃を受けた。
そのまま地面にたたきつけられる。衝撃は全て体に返ってくる。衝撃に酷く咳きこんだ。
「無様だな」
夏葵の声。
気配はしないが、いると思った方を振り返るより早く、傍に何かがたくさん突き立った。

「姿を変えるもの、禍を引きおこす者、うねり流れる形は転変せん。されば水は氷に、氷は棘に、棘は戒めに!」
ばきばきと地面から氷の棘が生えた。