銀の魔術師と捕縛の糸
17.始まりは声高に告げ 05結界を張る最大領域を見回っていたら、ついに雨粒が落ちてきた。
露店がひしめいている方からは落胆の声が上がる。
後夜祭は1時間程度は確実に前倒しになるだろうか。
凪夏葵は雨が降ったら撤収・後夜祭の前倒しの指示を出している。
誘っているのか。
それとも今しか時間がないだろうと踏んでいるのか。
どちらにしても、小田原が動けるタイミングは今しかない。
凪健一の近辺にもアンテナを張っていることもあり、今回父親の飛び込みはないことだけは分かっている。
他は未知数だが、一番の危険は汐崎あかりと夏葵の近辺集団。
それも大規模魔術では対抗できまい。ましてや刃物を使うあかりは人前では厳しいものがあるだろう。
雨が大粒になってきたこともあり、小田原は昇降口に入った。
「……怜奈」
陰になっている教員用の昇降口に向かうと、途中に怜奈が立っていた。
外に向けられていた視線は無感動で冷たい。
「外が空いたら始めるぞ。お前は後ろをとれ」
怜奈は沈黙したまま微かに顎を引くと、校内に戻っていく。
人の中に入るにつれ、張りつけたように1生徒としての表情に変わった。
小田原はもう一度外に視線を向けると、レインコートを取りに職員室に向かった。
――動いた。
夏葵はそうと分かると必要な物を持って生徒会室を後にした。後夜祭にまでなってしまえば、する仕事はもうない。
人の溢れる廊下で流れに逆行し、階段を一息に駆け上る。
あかりたちに張らせたスキャンはちゃんと機能していたようだ。
最上階からさらに屋上へ。
重い鉄扉を押しあけると、雨と湿った空気が襲いかかる。
雲間に不穏な明滅がある。落雷もあるかも知れない。
下に目を向ける。校庭は見えないが、そこに小田原がいる。
――夜霧、来い。
荒れ狂う空に、指笛が高く鳴った。
体育館から歓声が溢れていた。