銀の魔術師と捕縛の糸

17.始まりは声高に告げ 03
結局香葵とは逢えなかった。入れ違いになったらしい。
それならば仕方ないと、あかりと利は外に出た。
ライブ会場となっている体育館ほどのやかましさはないが、屋外演奏や売り込みでかなりにぎわっている。
「……せまいな」
「あんたがデカイのよ」
所せましと露店が並ぶ状況に早々と嫌気がさして、露店街から抜けるためにはずれに向かう。
制服を着ていれば着ているで、私服なら私服で、どの人も同じに見えるから不思議だ。
その中に、

「怜奈だ」
「どこ?」
「右斜め前の10メートルくらい先の角の」
「まったく見えない」
頭一つも身長が違うのだから仕方ない。
「……なんか凄ぇ早歩きで人混みの中に紛れて行ったぞ」
「やっぱり避けられてる、かな。また発信機でも仕掛けてみる?仕掛ける方が大変そうだけど」
「いや……もうそれは勘弁」
夏葵の時にいろいろ酷い目にあったからもう結構だ。
そう利がうめく横で、あかりは露店でたこ焼きを買い始める。
「人混みの中で食べたらさすがにまずいわね」

「あっれ、姉貴――?」
あかりは思わず「はあ?」と声を上げた。
「はあ?はないだろ、はあ?は。あ、利兄おはよー」
死角からの声に周りを見ると、後ろから弟の朋也が近寄ってきた。
「トモ、あんた今日部活じゃなかった?」
「みんなでサボれば怖くない。そもそも顧問いないし、今日」
夏葵さんと一緒じゃないんだね、と朋也は意外そうに呟いた。
「あいつは仕事」
「ああ。生徒会長様は大変だね」
姉弟はやはり言う事が似ている。
「あ、そうだ。あんたこのへんずっとぶらついてたの?」
「まあ20分くらい」
「さっき怜奈いたらしいんだけど、あんた見た?」
「怜奈先輩?いや、見てない」
利とあかりは空を仰いでため息をついた。どうにもならない。
「つか姉貴たち何やってたわけ?昼飯調達?」
「夏葵のパシリだな」
「それはそれは御苦労さまで」
「じゃ、わたしらさっさと用事済ませるから。夏葵に会いたきゃ生徒会室に行きなー」
やだよ仕事押し付けられたくない、と朋也は言い放つ。朋也も夏葵の性格はもう把握している。
じゃーねーとひらひら後ろ手に手を振って、今更のように往来から離脱した。



夏葵はノートPCの画面を睨んだ。
スキャンが反応した。呪式の類ではない。人に対するものだ。
小田原か、山下怜奈か。
小田原だったらあかりが暴れるだろうから、そのうち何処からか報告が入るだろう。怜奈の場合は愚痴だ。

準備は早めに終わらせないと。
いつ、何が起きてもいいように。

夏葵はかたわらの書類から、平面図を抜き取った。