銀の魔術師と捕縛の糸

17.始まりは声高に告げ 02
「さてと……」
夏葵はノートPCをスリープにして書類を受け取った。屋外で弾き語りなどをする追加申請だ。
「なんでこんなにあるんだ」
「屋外でも前もって申請するようにって、毎年言ってるんだけど追加減らないんだよねー。これが」
朝一で判を押した申請書をスキャンしている書記が嫌な顔をする。
「毎年?そんなもん規則として事前申請以外突っぱねるように決めたらいいだろ」
「その規則を3年前にぶち壊したのが汐崎だ」
明桂学院内では古参の部類に入るこの書記は、中等部時代利の補佐をしていたという。
つまりは、あかりの被害を被ったということだ。
「あかりか……」
あかりに簡易魔法陣を削除する呪式を与えたが大丈夫だろうか。
利に与えた方はスキャン機能があるため、しばらくすればヒットがパソコンに入ってくるはずだ。
「会長さ、会長から汐崎のことよく言い含めてよ。むしろ常識教えてやってマジで」
「無理無理、女には敵わない」
あかりには対抗するより手を組んだ方がよほどいい。
うわ言のように夏葵がそう言うと、生徒会室にいる全員が実に嫌そうな顔をした。
「浅井って本当に可哀そうだな……」
「また来たらコーヒーでも出すか……」
そんな相談をBGMに、夏葵はばんばんと判を押しまくっていった。



「夏葵の奴、何仕掛けたのかしら」
「まあ、対小田原の何かだろ。校内を隅から隅まで、なんて」
魔術でやったらばれそうだし。一番わかりにくいのはアナログだ。
いつもでは考えられない喧騒と人の出入りがある校内を、2人は右に左にぶらつく。
「隅から隅までってことはさ」
「うん?」
「中庭も体育館も」
そうだろうと利は頷いた。
「グラウンドも駐車場も?」
「えーと……そうじゃないのか?」

遠いな、とどちらからともなく呟いた。
「先に体育館まわりを提案」
「賛成」
「体育館に行けば香葵に遭遇するかもな」
「そうね」
二人はその場で方向転換して、一路体育館へ向かった。