銀の魔術師と捕縛の糸
17.始まりは声高に告げ 01「狼煙上げる意味あるのかなあ……よく近所迷惑の投書が入らないわね」
「まあ、近くで上げられると結構体に響くよな」
午前9時30分に狼煙が鳴り響いて文化祭が開幕した。
利とあかりがいるのは進学科2年に割り当てられている休憩室である。
とりあえず来てはいるが、やる気など微塵もない。
再び、狼煙。
ドンドンドンドンと立て続けに鳴り響いた瞬間、あかりがあっさりとキレた。
「やかましいー!!」
「夏葵に言え!夏葵に!!」
「いないじゃないの!!」
「1日1巡回1睨み、かー……。そろそろ生徒会室に戻ってる時間じゃないのか。いいのか、行かなくて」
「……そうね」
「配給も、だな」
「手数料と足代として一割増しで請求してやる」
「あかり、お前実はもう夏葵と別れてたりしないか?」
スパン、と音を立てて戸を開け放つと、生徒会副会長以下、役員の面々がそろって振り向く。
「生徒会長様はいるー?」
いるよー、と中等部上がりの面々は慣れたようにそろって返事をした。
「利くん、利くん、もうちょい静かに入るようにあかりに言っておいてね」
「……悪い」
何で俺が、という不満はもう湧きあがってすらこない。
夏葵は生徒会室の一角を占領していた。
目の前にはノートPCとデジカメが鎮座し、無造作に置かれた鞄からは何冊ものノートとファイルが見えている。
「生徒会長様はやりたい放題でいいわねー」
「嫌味は壁に向かって言え」
「調子どう?」
差し出された手にビニール袋を乗せながらあかりはおふざけをひっこめた。
「んーぼちぼちー」
さすがに生徒会室で大っぴらに魔術の話をするわけにはいかないため、分かるような分からないような返事が返ってくる。
道具なら大っぴらに広げていいのか。
顔を上げた夏葵が、利の視線の意味に気付いたのか、ノートを1冊投げてよこした。表題からして見たことのない言語である。
「香葵は?」
「あいつはバンド。今頃体育館で騒音振りまいてるんじゃないのか」
「……香葵って楽器弾けたんだ」
「ああ、ピアノくらいは難なく弾くぞ」
よしできた、と夏葵が紙に紋章を書き込んだものをあかりに向けた。
「何が――ん?」
ぺしんと額に宛てられた瞬間、手品か何かのようにそれが消えた。
「あかり、校内を隅から隅まで歩いてこい。終わったら戻ってこい。午後でいいぞ」
「なんか仕掛けたわねあんた」
「ああ、浅井はこっち」
そう言って、びしりと顔面に叩きつけられる。まったく容赦ない。
さあ行けそれ行けと夏葵に生徒会室から追い出される。
「香葵空いてたら寄るように言っといてくれー」