銀の魔術師と捕縛の糸
16.非日常 04それから、一見何気なく、何の問題もなく時間が過ぎた。
夏葵は激増した決済に追われ、利とあかりは手伝いに駆り出され、香葵は夏葵にバンドの口出しをされていた。
「この平穏が怖いんだよねー。薄っぺらいから」
もそもそと昼食をとりながらあかりはそう言った。
香葵だけがバンドのミーティングで欠けているが、誰も気にしていないあたりいつもの光景だ。
「平穏か?」
「平穏じゃない。まだ殴ってないし」
「あかり、いい加減そこから離れろ。くどいぞ」
確かにあかりと小田原が未だ激突していないと言う点においては平穏だった。
だが、ぽつぽつと魔法陣や細工が現れ始めたのはどういうべきか。予想していたよりもはるかに少ないとはいえ。
「せっかく毎日毎日朝一に登校してるのに、それらしい場面に一回も出くわしてないなんて平穏すぎるでしょ。わたしはあいつを殴りたいんだから」
「いずれ殴れるんだから喚くな!」
「浅井、お前も大概物騒だな」
夏葵にだけは言われたくない。
「この分だと夏葵の予想は的中だな」
「どうかな」
数が少ないことから、何か大きなのを一つ用意しているような気がする。あるいは長丁場のためのダミーか。
「夏葵、別に相手に合わせる必要ないだろ?」
「そうそう、夏葵がその気になれば蜘蛛なんてぷちっと潰すだけでいいでしょ」
そうすればわたしが殴れる日が近づくんだし、とあかりは結局そこに行きついた。
「あのなあ、真っ向から喧嘩売るのって面倒なんだぞ?仕事とか計画の成り行き上とか、事が起こるのが確実な後追いに比べたらはるかに」
「そんなの俺らが知るわけないから」
「そうそう。喧嘩とかサシならまだ経験あるけど」
「お前ら今すぐ組合から登録抹消しろ」
「一般構成員なんて大概そんなもんでしょ」
夏葵がイレギュラーすぎるのは夏葵以外の誰もが知っている。自覚がないのだ。
「来週には文化祭か―」
「明日の事前集会で俺の仕事も終りか」
「事前集会ってあれでしょ。生徒会長の役職でもって『もめごと起こしたらただじゃおかないぞ』っていう脅しでしょ」
夏葵は首を傾げたが、利が深く頷いた。多分そうなのだろう。
「明日からの準備期間で活動的になったら確実ね。尻尾出せばいいのに」
「あかり、わかったから」