銀の魔術師と捕縛の糸
16.非日常 03「ここまでが通常日課、準備に1日挟んだら丸2日の文化祭」
「放課後以外動けない、と。普通は」
「放課後も無理じゃない?居残りが大勢」
「下校過ぎは?」
「3日前から運営委員と生徒会が持ち回りで泊まり。結界張れば一応気づきはしないがどうだろうな」
もちろん夏葵はそのシフトには入っていない。
「なら文化祭後まで何もできないんじゃ。下手すれば夏休みに」
香葵が実に嫌そうな顔をする。夏休みまで夏葵に振り回されたくないという顔だ。
「いや、一回だけ間ができる。全校生徒が校内体育館に集合する」
「――――後夜祭?」
「あー」
「最短で向こうが仕掛けてくるとしたらそこだろうな。その時間内に片づける自信があるなら」
「夏葵ならできるでしょ?」
「保証はしないができるにはできる」
怖いので、その手段については誰も聞かない。
「なら問題は、あちらさんが短期決戦で挑めるかどうか、か……」
利は先日の事件を思い返した。あれとなると、長期ではなくもはや陰謀や策略という方がしっくりくる。
「可能性としては、短期か長丁場の二者択一。それもあの一件で長丁場も手の内がばれてるから8対2ってところだろうな」
「なんで長期決戦の可能性はないんだ?」
おっかなびっくり疑問を口にした香葵に、ポッキーをくわえたあかりが答えた。
「あんたね、この底なしに呪力をもってる化け物相手に長期決戦挑むー?息切れした瞬間に死亡フラグでしょ」
あかりなら絶対に長期決戦で挑まない。やるなら闇打ちか暗殺か……いずれにしても正々堂々とは程遠い。
「なら、どっちでかかってくるかの見極めは?」
「まあ、校内で魔法陣なり呪力なり組んだ痕跡があれば短期だろうな」
「持ち込みの可能性は?」
「そんなにスペックあるかな……」
夏葵の目には小田原にはそこまでのスペックがあるようには見えないようだ。
「なら簡略バージョンは?」
夏葵は長く呻くと面倒臭そうに寝転がった。
「蜘蛛は別として……呪符系統か?陰陽五行と神道……はないか。仏教……蜘蛛の糸のモチーフもあるけどなー。儒教は違うだろ。……触媒もあるか。蜘蛛と蜘蛛の糸と、土系は使えるのか?まつろわぬもの関連もありかー」
横でそれを聞いていた香葵が「理解不能」とうめいた。
「民間伝承……あるっけ?じょろうぐも?アレ関係あんの?」
「俺に聞くな」
「自問自答じゃない?てかそんな伝承確かにあったわね―。夏葵の頭の中って入力したらヒットが一覧で出てくるの?」
「俺は機械じゃない」
一応こちらの話は聞いているらしい。
「持ちこみだとしても、ルーンはないな。錬金系統も可能性低いと思うんだよな」
「同系列はあり得ない?」
「ないだろ。組合内部でも西洋魔術は半数を切るくらいだ。家系的特殊能力どころか、化け物が堂々存在するんだ」
「ああ、いるねえ。化け物」
どうやらあかりや利にも思い当たる節があるらしい。
「で、何の話だっけ?」
「小田原対策だ。小田原」
「ああ、嫌がらせ?」
3人そろって違うとあかりに怒鳴った。
「で、結局どうするんだ」
「魔法陣とかいじった形跡みつけたらその場所教えてくれれば……なんとかする」
「学校でごそごそすんのまずくないか?」
「生徒会の腕章パクって来る。正当な権利として」
「その場で解除できるんだ」
夏葵は「多分」と答えた。
「仕掛けてるの見つけたら殴っていいわよね」
「発覚しなけりゃ犯罪って言われないしな」
誰かこいつらに1から常識を教えてくれ、と香葵はうめいた。利に言わせると死んでも不可能なのだが。
「あれ、そういえば、クラスの打ち合わせって今日だったね」
「…………」
今更言われてももう遅い。
不自然な沈黙に4人とも目を泳がせた。