銀の魔術師と捕縛の糸

16.非日常 02
「……何で生物が初日なんだよ」
「……何で古典が初日なんだよ」

考査の全日程が終了して、利と香葵が仲良く机に沈んでいる。
「こりゃいつもより成績悪いわね」
「浅井は1,2個の凡ミスがあちこちで出てるだろうな」
「香葵は古典で大ダメージ喰らって、他はまあ、夏葵の教え方次第ね」
夏葵は緩くうなずいた。
それを聞いてか、利と香葵が肩越しに振り返る。
「あ、蘇ってきた」
「……お前ら他人事のように笑って」
「……いい気なもんだ」
「他人事だし?」
「そうそう。他人事だし」
利と香葵が共感しあっているように、あかりと夏葵も完全に共感している。今回も満点だろう。
「さーてお前ら、これ以上へばってる暇はないぞ。作戦立てるぞ作戦」
「って言っても、ここだと何処から漏れるか分からないから場所変更ー。よーし帰ろう。お腹すいたー」
あかりはそう宣言すると鞄を取ってさっさと教室を出た。
「ほーらお前らも行くぞー」
あかりと夏葵の背に届いた返事は完全にダレていた。



「何でわざわざ神社でやるんだよ」
「んー?」
「教室でよかっただろ」
夏葵はペットボトルから口を離すと「蜘蛛」と呟いた。
「あそこもう小田原に完全に抑えられてる。蜘蛛がいたからな」
「ああ、それで」
「盗聴、みたいな?」
夏葵はあいまいに頷いた。
「たぶんな。あそこはもう俺らのテリトリーとは言い難い」
「いつも本読んでるだろうが」
「暗号文だ。解読する手間考えれば見ても切り捨てる」
利が呆れ顔になる。
「それで、ここなら俺らのテリトリーだから安全だろうって?」
「ここ結界あるだろ。今のところ何も感じないし」
そういって夏葵は周囲に視線を投げかける。
「というか、ここ呪力が強いから、あれしきの呪力しかない蜘蛛じゃ負ける」
「そうなのか?」
夏葵はひとつ頷く。結界侵入で呪力のつながりが切れて、山の呪力に押しつぶされるのがオチだろう。
「そうじゃないか?」
「さあ」
利とあかりは首を傾げた。毎日この中で生活しているから考えたこともないらしい。
「で、夏葵は何を仕掛けるつもりなの?」
「仕掛けるつもりは今のところないが」
「いいのか?フル装備って面倒なんだろ?俺らと違って」
「そうそう、香葵と違って」
「何で俺だよ」
香葵は装備も何もあったものじゃないからだ。
「まあ、でかい呪式は夜霧に背負わせて、事が始まり次第呼ぶつもりではいるが」
「荷物持ちじゃないんだから」
「で、簡略化した物は嵩張るが、カードやチップにすれば扱いも楽で持ち歩いてるし」
「最近次から次へとなんか作ってるしなー」
香葵が目を泳がせてそう呟いた。そのせいで香葵は勉強に付き合ってもらえなかった。
「というか受けて立つ俺は後手に回らざるを得ないっていうか」
「それは一理あるわね。なら妨害工作行く?」
あかりは頷きながらにんまりと笑った。強いて言えば妨害工作のところで。
「見なれない呪式発見したら破壊とか、蜘蛛見つけたら潰すとかか」
「陰口を言うとか、根も葉もないうわさを流すとかもね」
それは嫌がらせだ、と男3人が口をそろえる。
「効くわよ?」
「効く効かない抜きにして、それもはや別物だろ」
「私、小田ちゃん嫌いだし」
あかりは完全に混同している。目に物見せてやれたら十分と言う顔だ。
「それはひとりでやってくれ」
やろうよたのしいよと騒ぐあかりを放置し、夏葵は「生徒会」と印の押された日程表を広げだす。
「これ部外秘なんじゃ」
「言わなきゃばれない」
怪しむ利と香葵に夏葵は完璧に確信犯で答えた。