銀の魔術師と捕縛の糸

16.非日常 01
とは決めたものの。

怜奈は頬杖をついた。
ホームルームの教室は騒がしい。
怜奈は占いや物探しなど、系統が確立している魔術の類ができない。
――歩いて探せって?考査前の、この梅雨に。
怜奈の頭の中には文化祭というイベントはない。考査は明日からだ。
今はクラスの出展物を決めている。一年生義務の合唱は春先に決定しているので、考査後から合唱練習がある。
たいそう面倒だ。
「怜奈ー、何かある?」
「えー、主要なのは上の学年から押さえられてるし。一年の出展って完全におまけだし」
「そうよねー。1年は飲食物禁止だし」
合唱練習に時間を取られるせいで、他の事に割く時間は効率化しなければならない。
「ああもう、めんど……」
怜奈はけだるくため息をついた。



「おい浅井、問題終わってないだろ。何ダレてんだ」
「だってさ……」
教室で机に突っ伏していた利は、夏葵の声に身体を起こした。
身体の下に隠されていたのは生物の教科書と問題集。
自習をいいことに夏葵はせっせと別方面の勉強をしている。
ちなみに、今夏葵が利の横にいるのは席を代わってもらったからだ。
「お前このままだとまずいだろ」
「……いつもまずいよ」
「それもそうだな」
否定しない夏葵はまったくいつも通りだ。
「目標50点……50点」
「志が低いわよ―。平均の60くらいとりなさいよ」
「誰のせいで平均上がってるんだよ!」
「他の科目はお前も要因だろ。口を慎め」
斜め後ろであかりも頷く。そのあかりは生物のヤマを張っている。
「それ、クラスメイトに売ったら喜ばれるぞ」
「そんなことしたら奨学金取り消しになるわよ」
「……提供したら」
「金がからまなければひとまず問題にはならないな」
でもそしたら、と夏葵は本に目を落とした。
「クラスから全体の平均点が上がって、お前、また面白いことになるぞ」
利的にはとっても面白くないことである。面白いのは夏葵とあかりくらいだ。
「さて、もう少しで自習も終わりなわけだが」
「……あ」
「問題集終わらなかったな―。生物初日だぞー頑張れ―」
完全に他人事の夏葵を尻目に、利は再び机に沈んだ。