銀の魔術師と捕縛の糸
15.雨に紛れるモノ 02「あれ怜奈じゃない?」
「どれだ?」
「どこだ?」
昇降口で傘を開こうとしたあかりが手を止めて、校門の先を指す。
「そうなのか?」
「どの傘だ。見分けつかない」
「えーと、あの白っぽいの。あー行っちゃったー」
夏葵は未だに首をかしげている。雨が強いせいではっきりと見えないのだ。
「雨がなけりゃはっきり見えたのに」
「仕方ない。雨が降る時期なんだよ」
忌々しそうな夏葵を窘める利も、顔は実に嫌そうだ。あかりは雨だろうが変わらないし、香葵は一歩間違うと小学生レベルだ。要は騒ぐ。
「ぎゃー、雷鳴ってる!停電とか起こらないかな、停電!」
「……香葵置いて帰るか」
「そだね」
夏葵とあかりは容赦なく香葵の横を通り過ぎる。
「そう言えば夜霧は元気?」
「ああ。雨降ってるから今頃起きだしてるんじゃないか」
夏葵はそう言うと、自宅の方に顔を向けた。
「そうだな、起きたな」
「分かるのか」
「気配が増減するからな」
その一言であかりと利が気配を探る。
「……寝てる時の気配意識してないから比べようがないな」
「夏葵は使役してるから分かりやすいの?」
夏葵はそれに頷いて角を曲がった。
何か落ち着かない。
遠くの空気が変わった。そんな感じだ。
「……何、これ」
「怜奈ー?」
「ううん、なんでもない」
怜奈は緩く首を振ると、会話に乗るふりをして思考に沈んだ。
――入学した時から、何となく感じていた。
稀に遠くで空気が変わるような感じ。
確証はないが、昔はいなかった。
入試の時もいなかったような気がする。その時はいなかっただけという可能性もあるが。
ここ1カ月は常駐しているので、入試以降に来たか、怜奈と同じで入学や転勤で来たか。
――でも東京や政令指定都市でもないのに、あの4人と親族以外でそんなに居るのかな。
一つの街――町村と規模が小さい市なら、3家族がいいところである。地方都市以上ならせいぜい8家族。
その半分が組合に名前が載っている、それなりの寺社仏閣関連。
今の平瀬の街は、正直多い。これ以上魔術師がいるだろうか。
血縁者を含めたモグリは正規人口の2%以下らしい。だから平瀬に他のモグリがいるとは思えない。
アプローチ方法がない。
気配自体も慣れないせいで特定できない。
よくある事例ならある程度見当がつくが、全く知らない気配だ。
何だろう。
――調べて、みるか。
傘を傾けると、水滴が流れ落ちた。