銀の魔術師と捕縛の糸

14.学校に隠れるモノ 03
「結果、まだなの?」
「一応まだ照会中。でもこの分だと出てこないだろうな」
組合の魔術師は確実に名簿管理されているため、照会すれば一日程度で情報が届く。時間がかかると言うのは籍を移した時と、情報が見つからない時だ。
「まさかのモグリだったわけねー。どうりで情報伝わってこないわけだ」
利も頷く。組合に籍を置く以上、近隣在住の魔術師はばれてしまう。
「ならこっちは頑張って情報集めないといけないわねー。そういう作業苦手だから嫌だけど」
「ああ、お前には向かない」
夏葵はしれっと断言した。あかりはどこをどう転がっても武闘派だ。
「向こうの魔術系統が分かれば助かるんだけどな……。親父も知らないみたいだし」
「情報になりそうなものないの?この間の魔法陣とか」
「この前のって……ああ、学期末のあれか。さっぱりおぼえてない」
あの極限状態で覚えてたら、そのほうがよほどバケモノだ。
「……不利だな」
「そうなのか?」
不利だ。夏葵はもう一度そう言った。
小田原は健一の魔術系統を知っている可能性が高い。そうすれば自然と夏葵の魔術系統も絞られる。
あかりと利は前情報がある分、魔術系統は確実にばれているはずだ。
あかりが戦闘専門か知られているかどうかは謎だが。
「その、この前遭遇したやつの魔法陣は?」
「あれか?あれなら香葵でも作れる。基本そのままだから」
「……有力情報なし、か」



情報が足りない。
小田原はペン先で机をたたいた。
健一の魔術系統。学期末の一件で得た情報。狭霧神社の魔術的な系譜。
――これでは足りない。
警戒すべき要素はまだほかにもある。凪夏葵の魔術的な系譜。あれは未知数と言える。
事を構えるには、明らかに情報が足りない。
こんな時に、組合に籍を置いていなかった裏目が出るとは。
組んでいる怜奈は、正直言って呪力的な素養に恵まれているだけで、まったくと言ってもいいほど使えない。

捨て駒になればいいと思っている。
あるいは、囮。

それでいい。
所詮これは私怨だ。だが、晴らさないと気が済まない。
健一と戦って勝てないのは知っている。夏葵の母親に至っては、立ち位置がそもそも違う。
なら子供を標的にするしか方法がない。たとえ血筋も能力も天地ほどの差があるとわかっていても。
それも、卑怯に。
怜奈は卑怯な手を使う事に抵抗があるようだが、小田原に言わせれば、それはまだ魔術師がどういった生き物かがまだわかっていないからだ。
組合に籍を置いていないこともある。
そこが逆に、勝手がいいのだが。
勝手が悪いのは、魔術を理解しきれていないという点だ。
とにかく応用が利かない。実戦経験も圧倒的に足りない。
小田原は、怜奈が組んだ魔術を添削しながら、息をついた。
怜奈がもう少し数学と言語に秀でていれば、ここまでひどいこともなかったと思う。
魔術は、要は独自の数式と、韻を踏んだ言語だ。それによって理論が成り立っている。あとは先天的な能力が上乗せだ。
どれも中途半端だ。
能力――系譜や血筋ばかりは仕方ない。歴史が違う。
そして歴史がある魔術の家系は、生まれおちた瞬間から魔術師としての生活環境に身を置き、教育がなされる。
それでも、学習はどうにか追いつくはずだ。
怜奈は最近――高校に入ってからやっと熱心になってきた感がある。
今からでは遅いだろうが、熱心になることがなければこの高校を勧めた意味すらない。
しかし、なぜ今更。
何か転機があったのだろうか――?