銀の魔術師と捕縛の糸
14.学校に隠れるモノ 02生徒会室立ち寄りが最後の日だった。
雨のせいで薄暗い昇降口に立って、夏葵はため息をついた。やっと面倒事が片付いたと思ったのに、――あれはなんだ。
具体的に言うと、半ば葉桜になりかけた並木からのぞく結界、魔方陣などである。
隠してる――つもりなんだろうなあ。
これは香葵よりひどい。夏葵はそう思った。
香葵はそもそも苦手な魔術で仕掛けたりしないからだ。あいつは常に真っ向勝負。
さて素通りするか、わざとはまってやるか、と夏葵は選択肢を数えた。
ここから手を下すのが一番意表を突けて楽しそうだが、人目があるところではできない。それに、毎日毎日、魔術戦の準備万端というわけでもない。
とりあえず、通りすがりに魔術を壊しておこうと思い、夏葵は手帳から紙片を抜いた。
「思い出すと逃がしたことが不愉快だな」
あの時は単純に追う気がしなかったから追いかけなかった。今にして見れは、あの時やりこめてしまえばよかった。
「いいじゃない。これから追えば。狩りよ、狩り」
「お前も悪趣味だな」
「わたしが悪趣味なら、夏葵は極悪ね」
あかりはしれっとしている。夏葵に至っては極悪でなんだという意見だ。
「で、逃げたはわかったけど、どうなったの?」
「ああ――」
夏葵は近づいて、相手もろくに確認せずにいきなり結界を破った。
ぎょっとしたように振り向いた顔にはこれといって特徴はない。
「で、待ち伏せよろしくここで何やってんの、君」
いいながら夏葵は目に付いた魔方陣を壊した。――簡単に壊れることから魔術師のレベルが知れる。
少女は一瞬呆けていたようだが、夏葵がもう一つの魔方陣を壊したことを認めるや否や、鋭く舌打ちして駈け出した。
というか、荷物を置いて逃げた。
荷物はいいのかよ、という気がしないでもない。が、夏葵が心配することでもない。
夏葵はそう思って、最後の魔方陣を壊した。残していった魔方陣が誤作動でも起こしたら迷惑極まりない。
ぱちん、とむなしく音を残して、魔法陣が散る。
そしてその跡に残ったのは――ひきつぶされた、一匹の土蜘蛛。
夏葵は目を眇めた。
――蜘蛛。
蜘蛛から連想するのは小田原。
健一は小田原のことを土蜘蛛といった。
この学校に巣を張ろうとする、まつろわぬ者、と。
組合に籍を入れていない者も、土蜘蛛という隠喩で伝えられる。
奇妙な一致。
――調べてみるか?
そしてその結果は、今日に飛ぶ。