銀の魔術師と捕縛の糸

13.桜吹雪に隠れるモノ 03
「なんだかどでかい存在感を感じるんだが……」
あかりも何とも言えない顔で頷く。
「んー、あー、まあ、でかい、な」
返事をしない夏葵に変わって、香葵があいまいに返事をする。
「でもお前、全貌把握してるのか?」
「してないよ。してないけどさ、それでもでかいのはわかるよ」
「はいはい」
俺術の終わった直後に見てるんだぜ、と香葵は拗ねたように唇を尖らせた。
その横顔に夜風が強く吹きつける。
桜の花びらがどこからか飛ばされてきて、視界に白を割り込ませる。
それが、一瞬雪に見えた。
「寒……」
あかりが小さな声でぼやき、強引に夏葵の手を取った。その挙句手が冷たいと悪態を吐かれる。
「……もう着くからいいだろ」
「お茶飲みたい」
「どうぞご自由に」
夏葵は門の格子を押した。玄関に直行する。
そこに靴を脱ぎ捨てると、迷いなくリビングの大窓を開け放った。
「ちょっと、夏葵!寒い!!」
「少し我慢しろ――夜霧、どこにいる、出て来い」
夏葵の呼びかけで、ざわりと空気が震えた。
振り返ろうとした背に、息をのむ気配を感じた。



――なんだ、これは。
新学期早々の出張から帰ってきて、早々に感じたのは異質感だった。
――こんなものは知らない。
小田原和樹は、荷物を持ったまま、ホームに立ちつくした。
小田原が平瀬に居なかったのは、たった3日だ。その3日の間に。
――未知の、モノ。
自分の知らないものが、いる。
なんだ、これは、なんだ――