銀の魔術師と捕縛の糸
13.桜吹雪に隠れるモノ 02学期末、小田原和樹の一計で呪力の暴発を起こした夏葵は、春休みに静養という名の下に実家に連れ戻された。
実際のところ、静養とは名ばかりで夏葵は屋敷内で相当に好き勝手していたが。
そんな春休み半ば、夏葵はひどくやかましい夢を見た。
それは、声だ。
その声が幾重にも重なって唄っている夢だ。
その唄は、古歌であり、呪歌であり、呼び声だった。
自分の中に流れる異質な血に残されたものか、それとも自分の存在の特異性によって引き起こされたのかは知らない。
いずれにしても、夢遊状態で血だけを触媒に、夏葵は召喚魔術を実行した。
普通に考えれば、自殺行為である。
加えて、召喚魔術の中でも最難関の物理召喚である。
要は、全く接点がないはずのどこかの空間への道を作って、そこから召喚対象を連れてくる魔術だ。
下手をしなくても死ぬ。
ましてや、だ。
夏葵が召喚したのは九頭龍だ。
名を、夜霧という。夜霧、白息吹ノ王。
詳しいことは夜霧が話そうとしなかったが、白息吹というのはおそらく種族名か部族名だ。
その、王。
とんでもないものを召喚したな、という思いがさすがの夏葵にもある。
そもそも、龍というのは呪力甚大にして、陰陽五行にも関わるものだ。
龍という召喚獣がいるだけで、魔術の質は格段に上がり、術者の不足を補う。
正直に言うと、魔術師は誰しも喉から手が出るほど欲しい存在だ。
――その、一般的には喉から手が出るほど欲しい存在を、夏葵ははからずとも使役することになった。
夏葵個人としては、別にそんなに求めていたわけではないのだが。
加えて、夏葵がまだ夜霧の能力を把握しきれていないせいもあって、もはやもてあまし気味である。
実家に居たうちは、あれこれとやらせてみたが、さすがに目と鼻の先に敵がいるところでは無理だろう。ただでさえ、気配を隠匿しても分かるのに。
そんなあいつを説明するのは――
夏葵はひとつ頷いた。
「見た方が早いぞ、あれは」
放課後にでも来いよ。そう言うと、あかりと利は顔を見合わせた。
「あの気配で召喚獣?」
「あれでか」
「そ、あれで、だ。見ればわかる」
夏葵はそう断言すると、大きく伸びをした。