銀の魔術師と捕縛の糸

12.プロローグ あるいはfragment3
気配が、町に降りた。
利は不快気に眉をひそめて、それの感じる方を見やった。
――今度は何が来やがった。
柔道着を乱暴に脱ぎ捨て、舌打ちをした。
周りが何かと不穏なせいで、覚えのない気配に敏感になりすぎていることは分かっている。
あかりや兄ほど平然として居られないのは性分だろうか。それとも性能の違いだろうか。
携帯が鳴った。
人のいない道場に、無機質な着信音が虚ろに反響する。
着信はあかりからだ。
いつもなら嫌な顔をしながらもすぐにとるのに、今は手が止まった。
「…………」
しばらく瞬きを繰り返し、携帯を開く。
「……どうしたんだ」
『今の気付いた?』
「ああ、神社の中でも、やっぱり感じたか」
『あれ気付かないって言ったら鈍いわね。――どこだかわかる?』
「さっぱり」
『あ、聞く相手間違った。今のなし。同業に聞いても分かるわけなかった』
「……お前な」
携帯の向こうで慧の声が聞こえた。あかりに何か言っている。文句か窘めだろう。
『ま、いいや。明後日から学校でしょ。夏葵が帰ってきたら気づくでしょ』
「そうだな……病み上がりにいきなり調査か」
『調査どころか戦闘にならなきゃいいんだけどね――じゃ』
「……ああ」