銀の魔術師と捕縛の糸

10.浮上 02
――早朝、控えめなアラーム音があかりの部屋で鳴った。
「む……、あー」
起きなきゃ、そう思って布団を蹴りあげると、とたんに冷気が襲ってきた。
くしゃみひとつ。それで眠気が飛んだ。
今更のように鳴り続ける目覚ましをやっと止める。
せっかくの休みを、バイトのシフトのせいで惰眠を貪れないなんて。
期末考査が近いせいもある。利の化学の考査対策が迷走しているせいで、急遽あかりにシフトが振られたのだ。
昨日のあの一件の後、夏葵のことも気になったこともあり、実はあまり寝ていない。
「いや、利が悪い。全て利が悪い。うん」
あかりはひとり頷くと、手早く着替えて部屋を出た。と、階段で弟の朋也とかちあった。
「姉貴、朝から元気だな。大声で独り言とかさ……」
「あんたは低血圧」
あかりが身軽に階段を下りると、朋也はさぞ面倒くさそうに階段を下りてきた。
「それにしてもずいぶん上機嫌だな……。なんかあったのか」
「いろいろ」
「それはよかったな……」
朋也はリビングのソファに倒れ込むと、静かになった。
「こら、今日部活でしょうが」
あかりがソファを蹴飛ばすと、朋也は「うん――」と不明瞭に返事をしただけだった。
「ほんと、げんき……」
そりゃあね、とあかりはキッチンに立って返事をした。



浅井家に行くと、居間に利が転がっていた。
「慧兄、コレ何?」
「さあ……」
あかりが脇腹を蹴飛ばすと寝苦しそうな顔をする。
「疲れてるんじゃないの?」
「はあ?疲れてる?何で?」
「昨日学校で何かあったんじゃないの?」
「あったけど大したことじゃないわよ、ねえ?」
あかりは利の耳をつねり上げた。利が跳ね起きる。
「何すんだよ!」
「起こしてあげた」
あかりはいけしゃあしゃあと答えた。
「ほーれ、化学のヤマ張るから起きろー」
「わかったから蹴るな!」
慌てて飛び起きた利を見て、あかりは声をあげて笑った。変に気分が浮いていた。