銀の魔術師と捕縛の糸
9.集束 02ふらふらとスーツ姿の男が廊下をさまよっていた。
――さまよって、はないか。
迷っているのだろう。足取りは酷くあいまいだ。
いやに見覚えのある、その後ろ姿は、
「親父!?」
香葵の呼び声に、弾かれたように振り返った男は、香葵を見て目を丸くした。
「香……」
「どうしたんだ、こんなところに」
香葵は健一に追いつくと、体育館の方に足を向けた。
「具合悪いからって、夏葵からメールが」
「夏葵から!?」
どうした、と健一が香葵を見た。
「あいつ、ずっと調子悪くて」
かいつまんで説明すると、健一は眉をひそめた。
「わかった。まずは夏葵だ」
香葵は体育館へとつながる一本道に踏み込んだ。
「――だれがこんなことをしたのかは、俺が知ってる」
――小田原
香葵の後について歩きながら、健一は眼を伏せた。
――そんなに憎いか
親友といってもよかった関係が破綻したのは、かれこれ20年ほど前にまでさかのぼる。
正確には、この二人が生まれるとわかった時から。
「!?」
圧倒的な呪力の気配が、突如として掻き消えた。
今までとは毛色の違う恐怖が、背筋をかけのぼる。
鳩尾が冷えていく。
「こっち!」
香葵が示す先の、両開きの扉。
それを、勢い任せに開け放った。