銀の魔術師と捕縛の糸
9.集束 01心臓が早鐘を打つ。
小田原と対峙した時に感じた衝撃は、地面が撥ねたものではない。
錯覚しただけだ。
だが、これは錯覚ではありえない。
圧倒的な呪力。
身体の芯が冷えるような、恐怖。
「どっちだ……?」
呪力の強い方、強い方と足を繰り出す。
迷路のような校舎に、戸惑いと焦りを禁じえない。
舌打ちして、静かな方に踏み出す。
ふわ ……………
視界の端を、何かが横切る。
なんでもないようで、妙に目にとまった。
――埃?否、
黄金の、羽?
きらりと輝いて、一片だけが風に流れている。
通り過ぎながらも、妙に気にかかる。
――あの色、どこかで。
――夏葵?
健一の背後で、欠片が弾けた。
――奇跡が起きた。
きりがいいからと言って、英語の授業が早めに切り上げになったのだ。
「香葵ー、購買行こうぜ」
「悪い、ちょっと用事」
私語が飛び交い始めた教室を、片手をあげて後にする。
廊下に出ると、後は駆けた。
転げ落ちるように階段を駆け下りる。
香葵の足音は、いやに響いた。
ぞっとするような呪力は、未だに感じる。
――夏葵。
踊り場の窓から、体育館が望める。
見るのが怖かった。
窓から目を背けて、爪先にだけ視線を集中させる。
床で何かがきらりと光った。
――ガラス?プラスチック?
校内にあるとして妥当なものといったら、それだ。
だが、
――黄金?
誰かのペンダントから金鎖でも落ちたのか、と思った。
階段の静寂を蹴散らして、それがある段を飛び越えた。