銀の魔術師と捕縛の糸

8.暗闇に落とされて 01
水音がした。
空気が沈滞している。
澱みと水草のにおい。
何となく、懐かしく思った。
うっすら目を開いた。

――暗い。

ただぼんやりとそう思った。
何となく、寒いと思った。
身体は冷えて酷くだるかった。
それなのに顔に吹き付ける風は、温い。

――暗い、なあ。
街灯も月も、星もない。
――暗いよなあ。
夜じゃない。
陰でもない。
回らない頭でぼんやりとした視線をさまよわせる。

視線を遮るものは、何一つ存在しない。
――綺麗に晴れあがったらいいだろうな。
風の流れを目で追いながら、ぼんやりとそんなことを思う。
だが、晴れることなどないだろう。

ここは晴れることなどないと、俺は知っている。
ここは闇に閉ざされていると、俺は知っている。

――なぜ?
答えなど、どこからももたらされるわけがなくて。

俺はただ視線をさまよわせた。
遠くで葉摺れの音がした。