銀の魔術師と捕縛の糸

fragment1
駐車場に一台の車が乗り入れられた。
広い空きスペースに止め放し、壮年男性が降り立つ。
黒いバン同様に、黒を基調とした姿だった。
ひどく機械的な印象がある。
――その眼と、ゆるんだネクタイを除いて。

強い意志を炯々と宿す瞳が、駐車場を素通りする。
エンジンを切った車のドアを閉める。
踵を返して、明桂学院の昇降口に足を向ける。
ふと、口元がほころんだ。
壁の一点を見て、足を止める。

小さく、赤い、点。

「……ここにいたか」
呟く声は、艶のあるバリトン。
「さぁて……見てるんじゃないのか?」
そう言って、ぐるりと周囲に目を走らせた。
「小田原?」



「帰れ、凪」
声はちょうど死角になっているところから。
「久しぶり。大学以来か」
「相変わらず、頭が緩いようだな」
おかげさまで、と彼は受け流した。
凪、と呼ばれた彼は凪健一という。戸籍上は夏葵と香葵の父だ。
「貴様の息子も頭が緩い」
声は嘲りを含んでいる。
「そりゃあ、まだ16だ。当たり前だろう?」
「鴉に当たり前も何もあるものか――人でないくせに人のような顔をして」
健一の眉がひそめられた。
「お前が言えた口か?」
「言えるさ――そら」

ちりっ、とうなじで何かが焦れるような感覚があった。
不穏な気配。
微かな呪力。

「お前……」
健一は背広の裏に手をまわしかけた。



――ドッ――――――――――――

地面が、跳ねた。



「――お前の息子だ」