銀の魔術師と捕縛の糸

4.不調 01
食事後、何とかずるずると夏葵をダイニングに引きとめ、香葵は洗いものをしていた。
夏葵は香葵の話に気のない返事をして、テレビのチャンネルを回している。
夏葵の顔はやはり白い。
調子が悪いのは明白だった。いつもの夏葵なら、いくら「図体がデカイ」香葵でも突き放して部屋に籠るのだ。
「夏葵、テーブルに頬杖ついてると疲れるよ」
「んー」
面倒そうな気のない返事。
とろとろと瞼が落ち始めているところからして、眠いらしい。
「今日授業中寝てたらしいけど」
「……浅井に聞いたのか?」
「うん」
ふーん、と夏葵がどうでもよさそうに納得する。

数か月前まで周囲の全ての警戒心を向けていたのが嘘のようだ。
本格的に眠くなってきたのか、夏葵は頬杖を崩して腕を枕にした。
夏葵は100%どうでもいい状況か、信じられる状況でもなければ人の傍で眠らない。
信用した人が側にいる、という場合だ。
夏葵がたまに神社に転がりこんで昼寝をするという話を聞いた時には、あかりと利が信用に値すると夏葵が判断したのかと考えた。
そんなことをつらつらと考えているうちに洗いものは終わり、夏葵は完全に寝入っていた。
「……夏葵?」
ちょっと声をかけたくらいでは起きない。そのことはここ最近の状況から知っているが、一応声をかけてみる。
寝顔の白さから、利の嫌味はあながち嘘ではなかった。
揺さぶると軽く呻くので心配はないが、ここで寝ると余計に疲れるだろう。
ドアを開け放し、夏葵を抱え上げる。こういう時、夏葵が小柄でよかったと思う。本人は嫌がるだろうが。
「んん……」
姿勢がわかったので寝苦しいのか、夏葵が呻いた。