銀の魔術師と捕縛の糸

3.眠りの淵 04
とりあえず夏葵の口に合いそうなもの、と思って途中買い物に寄った。
香葵の通学路は、一本それると商店街がある。
揚げ物を嫌うからいつも青白いんだと香葵は思っているが、無理して食べさせて吐かれたらたまらない。
とりあえず八百屋によって、目に着いたトマトと適当な果物を包んでもらう。
確か家にジャガイモとショウガとネギがあったよなあ、と香葵はぼんやりと考える。それでレシピなど皆目思いつかないが。

「うーん。やっぱ豆腐かなあ……」
夏葵に物を食べさせる時の、いざという方法だと香葵は思っている。
「うん。豆腐豆腐」
たいして調理しなくていいし、と香葵は一人納得する。
香葵の料理でも湯豆腐なら夏葵も嫌な顔しないはずだ。
香葵はひとり頷き、豆腐屋に足を向ける。
豆腐を一丁買い込むと、そのまま商店街を抜けた。
そのまま2、3本角を突っ切ると、家のある通りに出る。
「あ、夏葵」
「…………なんだ、それ」
角で行きあった夏葵は胡乱気な目で香葵の買い物袋を睨んでいる。
「料理する気じゃないだろうな」
「湯豆腐」
「ならいいが」
白い顔で歩き始める夏葵を香葵が大股に追った。
「と、トマトといちごとミカンと」
「は?」
「夏葵あんまり調理したの食べないじゃん」
「お前がゲテモノ作るからだ」
ゲテモノという物言いがぐっさりと刺さったが、香葵はすぐに次の案件を思い出した。
「湯豆腐するんだけどさ、ご飯どうしよう」
「食べるのお前だけだろ」
「夏葵も食べろって。食わないと倒れるってホント」
「栄養なら取ってる」
「サプリメントじゃ胃が持たないって」
夏葵が珍しく苦い顔をした。サプリメント頼みはまずいという自覚はあるのだろう。
「なんか食おうよ。ネギあるからチャーハンとかさ。後はジャガイモあるから、味噌汁?湯豆腐あるからいらないか」
夏葵が微かにいやな顔をした。
「お前が作るのか?」
「作ってください……」
ここはすがるしかない。香葵が作ると言ったら、夏葵はその場で倒れるような真似をしかねない。
夏葵は軽く舌打ちしただけだった。恐らく了解の意である。
香葵に料理させるよりましだ、多分そう言う事だろうと長年の生活から想像がついた。