銀の魔術師と捕縛の糸

3.眠りの淵 03
「よっ、浅井!」
「……香葵か」

神社のシフトの関係であかりより早く出た利は、校門で香葵に捕まった。
「昨日ぶり」
そう言って、香葵はへへへと笑う。
「夏葵は今日の授業中爆睡だったぞ。3限から6限までずっと」
へえ珍しい、と香葵は大きな瞳をくるりと回しておどけた。
「あいつ家で何かやってるのか?」
少しの間、方向が同じなので足早に帰路を辿る。
「うーん。最近は帰ってみたらソファに倒れこんでることあるけど……。夜中は静かだしなあ」
香葵は首をかしげた。本当に知らないらしい。
まあ、あかりあたりが聞き出してくるだろうと利は思っている。

「あー、でもうなされてるんだよね。最近」
「うなされてる?」
「そうそう、息苦しそうに」
「授業中は安らかにお眠りになってたぜ」
軽く皮肉をこめてそう言うと、「死んでるみたいで嫌なんだけど」と香葵が渋い顔をする。
「実際死んでるように寝るしな」
声をかけても揺すってもびくともしない。息をしているのか周りが心配したほどだ。
「疲れてるのかなあ……。この前特製サラダ、無理やりたべさせたのがよくなかったかなあ……」
「…………お前の料理は食えないって聞いたことがあるんだけどな。それにそれじゃあ食あたりか何かだ」
「そんな不味いかなあ。変な物入れてないと思うんだけど」
話を聞いてない香葵が首をかしげる。
「まあ、ちゃんと休憩取るように言っておくよ。何か始めたら、あいつ一直線だから」
じゃあ、と香葵が手を挙げる。この角で香葵とは方向が変わる。
「おう、じゃな」
利は十字路を真っ直ぐ突っ切った。

実際、
利はため息をついた。
夏葵は色素が薄いのも相まって、あまり静かに寝ていると、生きているか心配になる。
ましてや最近顔色が悪いならなおさらだ。何度か貧血のような症状まで起こしていた。
加えてあの銀髪が、顔色の悪い夏葵から色彩を奪って、幽鬼のような印象を与える。
ちゃんと食っているのか、と聞いたことがある。
『……ああ。一応少しでも何か口に入れるようにしてる』
その時はよほど辛かったのか、青ざめた顔で机に突っ伏していた。
3日前の昼休みだ。
野菜ジュースを半分ほどだけ飲んで、もういいと手放した。
そのまま寝入った。
「ホントに大丈夫なんだろうな」
あかりがキレるぜ、と利は呟く。あかりがキレたら、その被害を真っ先に被るのは利だ。
頼むぜ夏葵、と口の中で呟き、利は帰路を急いだ。