銀の魔術師と捕縛の糸
3.眠りの淵 02――なつき
――なつき
身体を揺さぶられた。
その揺れすら心地よく、揺り椅子のようなまどろみをもたらす。
「んん……」
「夏葵!!」
「……ん?」
強くゆすられて、夏葵はやっと薄眼を開けた。
揺さぶっていたのはあかりらしい。
「え……何?授業終わった?」
「もう放課よ」
「え、嘘」
時計を振り仰ぐ。確かにもう6限は終わっていた。
夏葵の記憶があったのは午前中である。
昼休みを挟んで、ずっと眠っていたらしい。
夏葵が髪をひっかきまわしていると、あかりが呆れたような顔をした。
「センセたち、軒並み呆れてたわよ。声かけても、揺すっても、ちょっとやそっとじゃ起きないんだもの」
「あー……」
何となく覚えがある。揺さぶられたような。
移動教室の授業が一つもなかったことが救いととるべきか。
「ほら、帰らないと掃除当番が嫌な顔してる。帰るよ」
「ああ」
夏葵は立ち上がって伸びをする。最近すっかり癖になってしまった。
背中や腰の骨が鳴るのが分かる。
嫌な顔をして首を回すと凝っていた。
ずっと同じ姿勢で寝ていたからだろう。
「毎晩何やってんの?徹夜で読書とか実験?」
片づけ始めた夏葵を前に、あかりが首を傾げる。
「いや、何も。寝つきが悪いんだ」
「ふーん」
ルーズリーフや読みかけの本といった、机の中の授業に関係ないものばかりを鞄に入れると、夏葵も席を立った。
「帰ろう」
「ん」