銀の魔術師と捕縛の糸
3.眠りの淵 01眠いのに眠れない。
眠ると眠りが浅い。夢を見る。
だから必然的にまどろみに落ちる瞬間が増え、
意識に霞がかかった状態が続き、
夏葵は、額を腕に押しつけた。
眠い。
疲れが抜けないせいで、いつも身体が重い。
そっと息を吐いた。ともすると、呼吸が荒くなる。
体力が削られる。
疲弊が澱のように溜まっていく。
眠い……
ふと、意識が遠のくのを感じる。
最近の眠りは、むしろ気絶といっても言いような状態だ。
貧血を起こしかけたのも一度や二度ではない。
ろくに魔術実験もできない。
休日はほとんど部屋でぼうっとしている。
そういえば、最近神社に遊びに行ってないな、と思った。
あそこに行って寝ようか、と思った。
あそこの結界なら、この鬱陶しい視線から守ってくれるような気がした。
――行こうかな。
そんなことを最後に、夏葵は意識を失った。
授業中のとろとろとした眠りは酷く心地いい。
視線がなければもっといいのだが、仕方ない。
授業中の静かなざわめきは、人にもたれて眠るのに似ている、と思う。
微かな音が切り離せない。そしてその微かな音が、眠りを何より心地よく感じさせる。
無秩序な音が、人の全身に血が巡るのに似ている。
安心感を誘う。
幼いころはよくああやって寝たよなあと、ぼんやりと思い出す。
こうして寝ると背中疲れるんだよなぁ、と思いながら夏葵は意識を手放した。
――こそり。
こそり、こそり、と陰や隙間で動くものがあった。
夏葵が眠ったのを境に、数を減らしていく。
――こそり。
――こそり。
――こそり。
それは誰にも知られることなく、数を減らしていく。
夏葵が活動を始める時に備えて。