銀の魔術師と捕縛の糸
2.視線 02「今度は何を気にしてんの?」
「ん?」
「何か気にしてるような感じだから」
昇降口で靴をはきかえながら、夏葵は頬を掻いた。
「まあ、ちょっとな」
まだよくわからないので、明言を避けるとあかりもそれきりのその話題は終わった。
「それにしてもオニちゃんが高校にやってくるとは思ってなかったわー」
あかりが多少渋い顔をして言う。
それが少し意外で夏葵は聞き返した。
「多少の険が混じってるような気がするんだが」
「スカート丈がどうの、髪がどうのって鬱陶しいの。わたしの髪が茶色なのは地毛なんだってば!」
女子の敵のような扱いだ。
「だから夏葵も相当鬱陶しいと思うよ。寝てても嫌味言われるもん」
いつも百点取ってて何が不満よ120点でもとれってか、とあかりはお冠だ。
寝ていられないのは夏葵も少々嫌だ。夏葵にとっては授業は平均して退屈な物だ。
「まあでも」
「ん?」
「今年は戻ったばかりだから、普通科に回されるかしらね―」
夏葵は明桂学院のシステムはよくわからないが、あかりに言わせると、こういう事らしい。
新任や休暇明けはまずは1年間普通科を受け持つ。
そして2年目以降は教員の実力や手腕次第で普通科と進学科、進学科はクラスも決まる。
区別がないのは実技系の教科だけだが、進学科は実技の授業が普通科に比べてすくないため、実際は普通科の区分に当てはまる。
「ヒエラルキー」
「まあそんな感じ……ん」
噂をすれば、とあかりが低く呟く。夏葵も軽く背後を伺うと、小田原が廊下にいた。
こちらをじっと見ている。
「おい、汐崎」
「はいはい何です」
じつにあかりは面倒そうに振り返る。
「おまえ、いい加減にその髪」
「その話ならお断りですよ」
あかりはいい加減にしろ、という顔をする。
「夏葵、帰ろ」
「おい、お前ら」
「口うるさいから未だに独身なんでしょ!」
振り返ったあかりの発言に、小田原がぎょっとした顔をする。
「おい、あかり、それは……」
いくらなんでも気の毒だぞ、と夏葵が釘をさしても、あかりは憤然と歩いていた。