銀の魔術師と捕縛の糸

2.視線 01
――どこからだ?

視線の先を気にする夏葵をよそに、クラスではホームルームがはじまる。
誰が何を話しているかは興味がない。

――だれだ、何だ。

夏葵は目を伏せて、周りの空気に意識を広げていく。
人の放つ、強い視線じゃない。
弱く儚く、それでいて数多く、鬱陶しい。
意識が障害物の何もない空間を見続けている。

――暗闇。
こそりこそりと気配の弱いものが、いる。
ちらりと動いた、あれか?
闇に紛れる、赤いもの。
かすかに呪力をはらみ――

――――――――――――――。

意識がぶれた。
夏葵は眉をひそめた。
机の前にあかりが立っている。
――お前か。
いくら付き合い始めたからといって、魔術的な行為を邪魔されるのは魔術師として許容範囲外だ。
「寝てた?」
そしてあかりは、以前と変わりなく言葉に遠慮がない。
「起きてたさ」
ホームルームはもう終わったのか、人はまばらだ。
「じゃ、帰ろ」
「ああ」
鞄の中身がないせいで片づけるものもなく、夏葵は立ち上がった。