銀の魔術師と捕縛の糸

1.プロローグ 02
「小田原?オニ?」
夏葵が首をかしげる。
その後ろで、小田原はふいといなくなった。
「小田原和樹教諭。俺ら中3の時からうちの大学院に行ってたみたいだけど――高校の免許取ってきたんだな」
利がそう説明すると、つづいてあかりが口を開いた。
「生徒指導やってたの。だから夏葵の髪を見てたんでしょ。怒って顔しかめると鬼みたいな顔するのよ」
だからオニちゃん、とあかりは結んだ。
「最初はみんな小田ちゃんって言ってたんだけどねー。可愛くないしさー」
のんきに回想するあかりは頭の後ろで手を組んだ。
「夏葵も目ぇつけられたら大変だよー、って、授業で当てられても答えられるからいっか」
あかりはそういうと、興味をなくしたように伸びをした。



――小田原和樹。
夏葵はいなくなった方に目を向けた。
――なんだあの目は。
何かが引っ掛かった。
空虚さ、冷たさ、あと何か他に。
あかりが夏葵を呼んでいる。掃除が終わったとかなんとか。
夏葵は教室に向かって歩き出した。

――ああ、

夏葵は目を眇めた。
たくさんの視線。
人のいないところから向けられる、無数の視線。
――なんだ?
ひどく、ひっかかった。