銀の魔術師と捕縛の糸
1.プロローグ 01「何か、蜘蛛多くない?」
「まあ、目に見えているよな」
「多いって、絶対。去年は大清掃でこんなに蜘蛛の巣取りで――うわっ」
汐崎あかりは軽く身を引いた。
そばの凪夏葵も、嫌な顔をして一歩さがる。
それを視界の端でとらえた浅井利が、頬をひきつらせた。
3月に入ると卒業式のために、在校生一同は大清掃に駆り出されていた。
あかりの所属する私立明桂学院高等部も、それは例外なかった。
例外はないはずなのだが。
「利ー、がんばれー」
あかりは真面目に参加した記憶はこれっぽっちもない。
もっぱらあかりのすることは、割り振りと教卓の中のプリント廃棄である。
学校に来てまで拭き掃除だのをしたくないらしい。
そして今、全体で蜘蛛の巣払いがされていた。
これは背丈の高い男子の仕事となっているので、女子のあかりは利の後ろという安全圏から声援を送るだけである。
夏葵は身長のより高い男子に押しつけて逃げおおせた。
「夏葵って、身長何センチ?」
「俺? タッチの差で170届かないくらい」
「ふーん。利と10センチも差あるんだ」
「ああ、やっぱりそれくらいあるのか」
「おい、お前らいい加減に……」
利が手を止めて振り返る。それを見てあかりと夏葵は大慌てで逃げた。
「ちょっと、ほうき向けないでよ!蜘蛛!!」
「自分が関係ないからってペラペラと……ん?」
いがみ合うあかりと利は、夏葵が急に視線めぐらせたことに会話をやめた。
「…………あいつ、誰?」
二人は振り返った。
――あいつ。
ああ、と二人は納得した。
夏葵の視線の先には、こちらを見ている30代の男性教師。
「オニちゃん」
「小田原か」