銀の魔術師と孤独の影

spinoff-慧- 高校の話
あとになって思い返すと、名前くらいは聞く機会があっただろうが、脳は認識を拒否していたらしい。
覚えているのは、優しくて哀しい顔立ちと、――生々しいまでの、赤。

――事故。交通事故。
――飲酒運転、居眠り、暴走。
――搬送されるときに、ならなかったサイレン。

そればかりが思い返される。
新聞を遡れば詳細を知ることもできるが、そのことを考えることすら脳は認識を拒否する。
慧にとって、その記憶はこの夜以外に向き合う事を許さない禁忌なのだ。

そして、今。

慧にとっては、何よりも特別な時間。
――哀しい亡霊がひとり、高校に戻ってくるのだ。