銀の魔術師と孤独の影
episode-早春- 荒御魂「――――なんだって?」
祀る神がいないのにどうして神社なんだ、と夏葵の顔に険が宿る。
「由来がはっきりしないんだ、うちの神社は。ある意味、神道界においては厄介者であり、都合よく利用できる神社であり、各神社にとっての駆け込み寺」
慧が他人事のようにそう答える。
夏葵の顔に険が深まるのは、それがほしい答えではないからか。
「じゃあなんであかりに荒御魂が降りる」
「神がいないからだ」
揺れが収まると同時に歩きだした慧は、それ以上の説明をする気がないらしい。
「うちの神社には神がいない。だから逆に、神がおりてくるとしても、それは特定の神じゃない」
慧と夏葵の後を追いながら、利が補足して夏葵に説明する。
「じゃああの刀は」
「いくつか説はあるけど、由来は不明。代々神刀として祀っているうちに意味はなくなって、実在と現象だけが残ってる状態」
「じゃあなんで神社として成り立ってるんだ!」
「土着の信仰の対象になってたんだ。昔の火事で伝承記録なんかも焼けたらしいし。それに――いろいろ裏契約みたいなのも昔あったらしいから」
夏葵が口を閉ざした。裏契約――その言葉に、踏み込めないものを感じたらしい。
しばらく無言で小道を進む。
「あれは、離せるんだろうな」
「多分ね。一応のノウハウはあるからね」
慧の答えはあくまで他人事じみていた。
ただ、ぽつりと「通りものだったらいいんだけどな」と呟いたのは、慧の本音かもしれない。