銀の魔術師と孤独の影

episode-早春- 荒御魂
裏山の道は悪い。ぬかるみや段差、傾斜、茂みの障害に加えて、複雑に入り組んだ小道は迷路のようになっている。
利は主要に使われている小道しか分からない。必然的に後ろに下がることになる。
全貌を把握してるわけではないが、裏山は慧の方が詳しい。利よりも俊敏で、傾斜にも強い。自然と先頭に立って歩く形になる。
問題は夏葵だった。
体力は尽きないようなタイプで、悪路に苦戦するようするはない。
が、直感ばかり強くて、道より先に荒御魂の通ったあとに気がついてしまう。
厄介だった。
慧はたびたび夏葵の襟首をつかんで道に戻す。
集団には協調性がまるでなかった。
そのうえ、鳴動が酷く、たびたび足止めを食らう。
裏山自身が、荒御魂の邪気――そう、禍気など生ぬるいものではないもの――に耐えかねて哭いているのだ。

轟、轟……………………………………

「あれは――何だ?」
揺れをやり過ごす間に、夏葵が呟いた。
「あれ――って、荒御魂?」
「ああ」
「荒らぶる神、禍をもたらすもの、いずれにしても神だ」
「でも、ここで祀っている神なんだろう?」

「うちに神はいない」
慧が山の方を見たまま口を開いた。