銀の魔術師と孤独の影

episode-早春- 寝候
「―――」
寝がえりでもうちたいのか、あかりが重たげに頭を振った。
「んん……来んな」
と言って、夏葵の肩に頭を落とす。
それで夏葵がうっすらを目を開いた。
来んな、あかりはもう一度そう呟いた。
「うなされてるっぽいな」
「まあ、そうだな」
夏葵は無言であかりを押しやった。
それからしばらく、あかりの寝言は静かになった。
夏葵は足を投げだしたまま、ぼんやりと利と慧の作業を目で追っている。

冷たい風がガラス戸を叩いた。
パラパラとガラスに氷の粒が当たる。また冷え込んできたのか。

静かだった。
元気の有り余っている二人が静かなだけで、社の内が静謐になる。



カタ、カタカタ………………
カタカタカタ、カタカタカタカタカタタ………………



慧が手を止めた。
「狭霧――?」
拝殿の内にある神刀が突然小刻みに震えだす。



カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ



なぜだかぞっとした。
止まる様子がない。
夏葵が胡乱下に視線を寄越してきた。
「どうした」
「狭霧が暴れて」
その時、派手な音と共に、刀台ごと3本の神刀がひっくり返った。
「何だ……?」
利は腰を上げた。暴走が酷い。夏葵も授与所の中に入ってくる。
慧は膝立ちになって、あかりを起こそうと手を伸ばした。