銀の魔術師と孤独の影
episode-早春- 寝候「なんだそれ」
昨日は5時過ぎにいなくなって、今日の昼過ぎにまた来た夏葵は、あかりと利の手にあるものを認めて目を眇めた。
「何って、祭具とか」
この時期は空気が乾燥しているのでガレージで一度干すのだ。その片づけのためにガレージから引き揚げてきたものを手にしてるだけである。
「へえ、そんなの使うんだ――使った後か?」
「使うのは秋の祭。まあ使わないものもあるけど」
その使わないものが、今あかりの手にある琵琶だったり。
「これからどんどん持ってくるから今日は寝ないでよ。邪魔」
「ん」
一応入口に寄ったが、どこまで信用できるものやら。
「ありゃあ寝るぞ」
授与所を離れた慧兄がぼそりと二人に呟いた。
「あ、慧兄もそう思う?」
「とんだ居候だな」
「寝候だろ」
慧はそう言い残して先にガレージの中に入っていった。
「寝候……」
二人は顔を見合わせて、そうかもしれないと思った。
「あー疲れた」
嘘つけ、と利は言ったが、あかりはどこまで聞いているものやら。
夏葵は慧の言ったとおり、入口の簀の子に腰かけて舟を漕いでいた。
これから箱詰めだが、今回あかりは箱出しをしていないので箱が分からない。つまり作業終了である。
「わたしも一休みするか……だから夏葵どいて」
舟を漕いでいた夏葵は、突然振り返ったあかりを眠たげな眼で見ると、簀の子の端に寄った。
簀の子を半分ずつ占拠して、お互いリラックスする。
「夏葵じゃないけど眠くなるねえ」
夏葵は返事をしない。寝たのか。
あかりも壁にもたれ、うつらうつらと目を閉じた。
利と慧はかるく埃を払うと片づけをした。