銀の魔術師と孤独の影
20.エピローグ 01あの日からちらちらと雪が舞っている日が続いた。
関東という事もあって積もることはないが、風と冷え込みからか、参拝客は着こんだ姿だった。
巫女装束のあかりも千早を着ていたが――寒いものは寒い。
利や慧に甘酒買ってきてだのお神酒飲ませろだのごねてみたが、あっさりと却下されてしまった。
それも昨日のことだ。
1月も2日になると参拝客はまばらになる。
放射冷却で冷え込んでいても、すがすがしい寒さだ。
もっとも、眠くなければの話だが。
昨夜は寝たとは言っても、相当ハードな徹夜の後は8時間寝ても寝足りない。
迂闊に室内を暖めると寝るので、今暖房は入れてない。そうでなくても日中は底冷えするような寒さにはならない。
「あーあ……」
こんな日は座り仕事なんかよりも素振りをしていた方がよほど気が引き締まるというものだ。
授与所の果たす役割も退屈になってくればなおのこと。これが話相手でもいれば――と、あかりは欠伸をした。
まさかそれを見られているとは思わなかったが。
「暇そうだな、巫女殿」
「嫌味?」
とっさにかみついてから相手を認める。
夏葵だ。口元だけが笑っている。
「嫌味だな」
夏葵もしれっと返す。
「何でここに?まさかとは思うけど初詣?」
「香葵がな」
「ああ、なるほど」
夏葵が初詣というのは怪訝な話だが、香葵なら納得がいく。そういう奴だ。
「それはそうと、コート」
今すぐはさすがに無理か、と聞いてくる夏葵に、あかりは首を横に振った。
「休憩ついでに持ってこれるわよ。――あ、上がって」
『只今空けています。今しばらくお待ちください』という札をあかりはかけながら、夏葵に中を示した。
夏葵も断る理由がないらしく、無言で授与所の上り口に腰かける。
「じゃ、ちょっと取ってくる」
そう言い残すと、あかりは神社を出た先にある家に向かった。