銀の魔術師と孤独の影

19.枯桜の下で 02
「その一本が、あの桜だった、というわけね」
「ああ。そしてこのたび枯れたろう。それで完全に鎮魂のまじないが効力をなくした」
「それはずいぶんと長持ちなまじないだったわね」
有効期限は400年以上ですか、とあかりは呟いた。
「寿命か……」
利が残念そうに呟いたが、夏葵は首をかしげた。
「いや。寿命も近かったんだろうが、きっかけは2か月前だ」
「2か月……?」
2か月前は、夏葵と衝突した時期だ。
「それはもしかして」
「まあ、多分お前らの想像はあたっているだろうな。――お前らが結界を破った。その反動がこの桜を疲弊させた」

ああ、とあかりは息を吐いた。
あの時の反動を覚えている。独特の感覚だ。
「よく、それがわかったわね」
「聞いたからさ」
「聞いた?」
あかりと利が同時に聞き返した。聞いたって、誰から。

「聞いたんだ。このまじないを始めた張本人から。ほら、話していたろう。――頭蓋骨が」
夏葵は、最初に影の中心人物、次にまじないの創始者をあの頭蓋骨を通して会話をしていたということらしい。
「降霊術――」
「ああ。なかなか骨が折れた。このあたりの禍気を浄化して術の続行の燃料に変換。それから影を呼び出して中心を絞って、頭蓋骨に取りつかせて呪力を根こそぎ吸い上げて。それから始末して。その後には桜に取りついてなかなか離れようとしない奴を引っ張り出して、話を聞き出して――全く」
本当にくたびれた、と夏葵は首を回した。
「ん?」
夏葵がふと身動きを止めた。