銀の魔術師と孤独の影
19.枯桜の下で 01地面から吹き上げる風が砂埃を巻き上げる。
息をひそめて耳を澄ませていると、木々が揺れる音がした。
轟、轟…………………………轟……………
温い空気が一掃された。
どっと冷えた空気がなだれ込む。
「……っ」
目を開けると、空気の冷たさが目に染みた。
目を眇めて周りを見渡すと、茫然とした利と空を見上げた夏葵がいた。
天に差しのべられた手を、夏葵がゆっくりと下ろす。
「…………終わった、の?」
「ああ」
「どうなってたの?」
夏葵は乱れた髪を書きあげた。
「昔――江戸以前だと思うが――このあたり一帯に戦があったようだ。秋の終わりから冬の初めにかけて」
夏葵はこう語った。
負け側の負傷者は戦場に置き去りにされ、主人重臣は逃げた。
置き去りにされた側は、生き延びることもできずに怨嗟をその地に残して残らず死んだ。
だれにも弔われずに噂ごと朽ちて行ったが、あるときそこを通りかかった旅人がいた。
旅人は呪術に含蓄が深く、辺り一体に鎮魂のまじないをかけた。
あちこちを遍歴して回った旅人は、後に戻ってきてそこに暮らした。
まじないを強化して後生を過ごし、死んだ。
まじないの管理を、最寄りの神社に預けて。
――最寄りの、神社に。
夏葵はわざとそこを強調していった。
それが、江戸に入るか入らないかの頃だという。
平瀬は江戸中期に開墾されたと言われている。
それまで未開の地だった場所は、桜林だったという。
桜林は少しずつ欠けて行き、戦後に残ったのはたったの一本だったという。