銀の魔術師と孤独の影

17.嘆きの影 02
派手に破砕されるような空気の振動がした。
「……あかり」
得物を振りぬいたのか。
利は校舎を脱出しながら、視界に入らないグラウンドの様子を探った。

あの瞬間――グラウンドに黒いものが爆発的に増えた瞬間を利は4階から見ていた。
見通すことのできない闇の中、闇よりさらに暗く重いものがこの空間に爆発的に増えた。
もはやそれは禍々しいなどというものですらなく、邪悪であった。
衝撃で恐怖などどこかへ消えた。
それに続いて、あかりの扱う得物の気配。
使いこなせれば宝刀が持つ呪力を引き出すことも可能――と理論上はなっている。
記録によれば相当の使い手は幾多もの攻撃を繰り出したというが――。
あかりが使いこなせるのは、衝撃波に近いものだけである。



『衝撃波なんてものはね、呪力とかそんなのじゃなくて物理的に発生させることが出来るものなのよ』
――この状況で衝撃波が効くのか?
しかし、この回答は考えている暇すらなかった。
校舎の外に次々と湧く、邪悪な影。

オオオォゥ………………!!

「か、此く聞食してば罪と言う罪は有らじと、科戸の風の天の八重雲を拭き放つ事の如く――」
そう言って、とっさに逃れたの反射だった。
ばしん、と半実体化した影が結界に激突する。

ばんばんばんばん……!!

ぞっと背筋が寒くなった。
結界に複数残る赤黒い手の跡は――血?
認知した瞬間にむっと血の匂い――生臭さよりも鉄さび臭さ――が鼻につく。

オオオオゥァァ………………!!
ばんばんばんばんばんばん…………!!

「つ、罪と言う罪は在らじと、祓え給い清め給う事を――」
最後の方は消え入りながら、利は壁伝いに後ずさった。

――天津神国津神八百万の神等共に聞食せと白す――