銀の魔術師と孤独の影

16.異界 06
「うー……」
怖い、と思った。

音がない。
何の気配もない。
それなのに、満ち満ちる禍気とよくないもの。
足の下には、今し方出来上がった魔方陣。

――怖い
香葵はその瞬間本気でそう思った。
香葵はどちらかというと怖いものはないほうであるが、夜が、闇がこんなに怖いと思ったのは始めてだった。
いつもは闇に近しい人間がそばにいるからか。
「……夏葵」
いつになったら用具庫から帰ってくるのだろう。
怖い。
心細い。
吹き付ける風はいやに温いのに、寒くすら感じる。
異界だ――夏葵がそう言っていたが、それは本当に「そう感じられる」ということなのか?
魔法陣の中心に向かっていると嫌なものが目に入るので、落ち着きなくあちこちに目を向ける。

「あ……」

枯れて折れた、桜。
状況が状況だったので今まで忘れていた。
きれいに咲くと周りがそう言っていた。
「見たかったな……」
すぐに処分できないからか、落ちた枝もひとまとめにして桜の傍らに積んである。
いったい品種は何だったのか。香葵には区別はつかないが、枯れてもなお、その木は魅力を感じた。
「残念だなあ……」

そう呟き、何気なく低い位置にある枝に手を伸ばし――



――――――触れた。