銀の魔術師と孤独の影
16.異界 05――――――来る
直感的にそう思った。
――何が?
空気のかすかなぶれも逃すまいと、耳を澄まし、気を研ぎ澄ます。
あかりは、第六感ともいえるその感覚を重んじている。
先ほどからぼんやりと「いる」連中ならまだいいが――
「何だ、お前か」
後ろの茂みが大きな音を立てて割れる。
声にぎょっとしてあかりは飛び退りながら、とっさに得物を抜きそうになった。
「その物騒なものに手をかける癖は直したほうがいいと思うんだが」
「――夏葵か」
気が張っていたのもあって、あかりは盛大に息を吐いた。
「俺で悪かったか」
悪くはない、と答え、やっと刀から手を離した。
「悪くはないけど、いきなり何?」
「用具庫から持ってきたスコップ返したときにいるの見えたから」
「準備することはないの?」
「準備なんか大概終わった」
あとは待つだけ、と夏葵は呟く。
「香葵は?」
「置いてきた」
「それ、いちばん危険なんじゃ……」
「まあ、なんとかなるだろう」
妨害を食らうほうが危険だということはあかりももう知っている。
「それはそうと、浅井はどうした?」
内、とあかりはぞんざいに校舎を示した。
「怖いとか相当ごねたけど、わたしがこれ振り回して器物損壊のほうが怖いって」
実際のところは、ほのめかしたら利が折れたのだが。
「怖がりなのか?浅井は」
「ひとりで雰囲気の違うところとか知らないところに行くのが嫌いなのよ、あいつは」
へえ、と夏葵は意外そうな顔をした。
どちらともなく沈黙し、校舎周りの茂みを歩く。
「変だな――」
「?」
あかりは軽く首をひねって夏葵を見た。
夏葵は半歩後ろでぼんやりとあたりを見ている。
「異界さながらのここで、のんきに話ができる俺らが」
「ああ――」
確かにそうだ。
魔術師だからか、と夏葵が自嘲するように呟く。
魔術師だから、もう何かおかしくなっていて、狂っていて、普通の反応ができない。
何かが違うと、自己と周囲に違和感を与える――
轟………………………………………………!
「――!」
「来たか!」
身を翻した夏葵に続き、あかりも闇に紛れるその後ろを追った。