銀の魔術師と孤独の影

16.異界 03
一息ついた。
ねっとりと肌に絡みつく温風のもとは、禍気だ。
それが呼吸するごとに、重く夏葵の体内に溜まっていく。
不快だった。
そして外界とを結界で遮断したこの異界は、これから禍気の密度を増やし、さらに不快感を煽る。
夏葵は無駄な干渉を振り払うと、左手を一瞥した。
「香葵、どうだ」
「ん~もうちょっと」
グラウンドに屈んでいる香葵はせっせとチョークを動かしている。
夏葵は意識して息を吐き出すと、インセンスの灰を撒く作業を再開した。

――闇の異界に陰影の絵画。

空気がざわついているのがわかる。
風が哭いている。

「終わった~」
「……ああ」
夏葵も手に付いた灰を払い落す。
「でかいよね、これ」
「そうでもない」
サッカーのハーフコートにも及ぶ巨大複合魔方陣。
夏葵は中心から離れ、隅に転がしていたシャベルを拾う。
「これ、片づけてくる」
「えー、この不気味な状況で留守番!?」
「うるさい」
夏葵はそう言い捨て、校舎に向かって踏み出した。
なぜか、ひどく重く感じた。