銀の魔術師と孤独の影

16.異界 02
8時10分前。

夏葵も香葵もいないが、校門が少しだけ開いていた。
あの二人はもう中に入っているのだろう。
お互い無言で門に歩み寄る。
門には、黄色くぽつんと紙が貼ってあった。

『お前たちは入ったら構地内を見回って先に出てきたもの、寄り集まってきたものを始末しろ』

夏葵らしく、偉そうな命令である。
続けて、『入ったら校門閉めとけ』と一言。
「そろそろ8時だぞ……」
「ん……」
利に促されるままに、あかりは夜の学校に侵入した。利も続く。
利が軽く口元を押さえた。内外では空気がまるで違う。

真冬のくせに、湿度を含んだねっとりと絡みつく温風が澱んでいる。
星影も水銀灯の光も、何かに阻まれるように激減している。
――異界、二人の頭にはその2字が浮かんだ。
「行くか――」
「……ええ」
二人が踏み出す。その後ろで門がひとりでに施錠された。