銀の魔術師と孤独の影

16.異界 01
夏葵からの連絡は唐突で強引だった。
「明日の夜8時前に高校。8時には結界張るから遅れるな」とだけ夏葵は言うと、通話は切れた。
この電話を受けたのは利だが、隣にいたあかりも呆れた。
「まあ、夏葵らしいっていえば夏葵らしいわよね」
「俺は一言も口を開いてないんだが……」
携帯をポケットにもどしながら利はため息をついた。
「何持ってったらいいかな」
「塩と幣と紙幣と玉串と」
「おまえは得物」
当たり前、とあかりは傍らに立てかけてある刀をとった。
闇戸である。
「ま、狭土も持っていくべきか迷ってるけど」
あかりは本殿のほうを振りかえった。

そこには残りの2本の刀――狭土と狭霧がある。この神社にある神物としての鏡と双対をなす宝刀。
宝刀を振り回すのも対外罰あたりに見える行為だが、この刀は暴れるのでだれか使い手がいなければならない。
誰でも扱える刀ではないのだ。あかりの姉のように暴れる刀を抑え込んででも使うか、あかりのように刀を従わせるかできないといけない。

しかし、あまり使うと身の破滅もより近付く。
「おまえ、使うのもほどほどにしろよ」
「一応ほどほどに使ってるつもりだけど」
まあ、相当暴れるでしょうね、と呟く。
「何でわかる?確かに夏葵が指定した日だが……」
あかりは顔をそむけたまま口を開いた。

「明日はね、新月なのよ」



「不気味だな……」
通学路をたどりながら利が低く呟いた。
あかりは返事をしない。腰に帯びた2振りの刀に手を添えている。
日が暮れてからずっと暴れているのだ。
「おまえ、本当に大丈夫か?これからそれ使うのに飯抜いて」
「…………」
返事はしなかったが、あかりは顔を上げた。
異常に静寂な街の中心にあたる私立明桂学院高等部の校門が目の前にあった。