銀の魔術師と孤独の影

15.魔術師の部屋 03
仕方ないのでダイニングでお茶を勝手に飲んでいると、にわかに騒がしくなった。
「夏葵が無視するから――」
「術中に騒ぐ馬鹿があるか、この――」
「浅井とか汐崎さんとか来たから――」
「お前それ言ってないだろう。そもそもそいつらはどこだ――」
「知らないよ」
知らないよって……。
あかりと利はついにため息も吐く気が無くなった。
「ああ、ここか。悪いな。愚弟がひどく粗相をしたようで」
嫌みたっぷりである。香葵もこれには頭に来たらしい。
「なんだよ粗相って!!」
「粗相だろうが。あれもこれも」
「あったとしても最初に驚かせたくらいだ!」
「馬鹿だ、やっぱりお前は馬鹿だ」
夏葵が嘆かわしいとばかりにぼやく。
「何だよ馬鹿馬鹿馬鹿って!」
「ところでお前ら」
「聞け――!!」

あまりといえばあまりな会話に、ついにあかりが笑いだした。
「ねえ、あんたたちいっつもそんな会話してるの?おかしすぎるんだけど」
だから学校で接触しないわけ?とあかりはさらに笑い転げた。
夏葵が微かに眉をひそめる。
「浅井、明後日」
「明後日?」
「明後日の夜に仕掛ける。細かい連絡は後でする」
「場所は?俺ら必要なの?」
「明後日じゃあ、その後がきついよね」
その後に年越しと初詣でというイベントが待ち受けているので夜――徹夜は勘弁してほしいところだった。
「これから特定する。まあ、お前らいた方が多分楽だろう……何だその嫌そうな顔」
嫌なら首を突っ込むな、とごもっともな意見を夏葵ははっきりと言った。
「あれ?俺は?」
「いないよりは役に立つだろう。荷物持ちとか」
ついに香葵も返事をしなくなった。顔をひきつらせて「またかよ」と唇が動く。
「俺は続けるから――香葵、騒ぐな。いっそ寝ろ」

夏葵はどこまでもつれないことばを残してダイニングを一人出て行った。