銀の魔術師と孤独の影

15.魔術師の部屋 02
――なんだこれは。

もちろんドアに向けられた言葉である。
暗いので判然とはしないが、他のドア同様格調あったものだろうが、凄まじい数の浮き彫りと何かの殴り書きで、もはや原形を留めていない。
「これは夏葵がやったの?」
「うん、そう」
香葵は当然とばかりに頷くと、そのドアをノックした。

「なーつーきー」
「…………」
「入っていいのー?」
「…………」
返事がないので香葵がノブを握るが、回りきらずに止まった。鍵がかかっている。

「な――つ――き――!」
ドンドンドンドン
「あ――け――て――!」
ドンドンドンドン
「これって近所迷惑ならないか?夜中だし」
「近所って向かいしかないでしょ。大丈夫じゃない?」
廊下の反対側によってあかりと利がこそこそと会話をかわす。
香葵は相変わらずドアを叩いている。返事は一向にない。



「……うるさい!」
バン、と剣呑な音を立ててドアが震えた。夏葵が中から叩いたものらしい。
「開けろ!!」
「黙れ!」
会話になっていない。
それ以来また夏葵は黙り込み、香葵がやかましくドアをたたく。
埒が明かない。
「このドア破れる?蝶番とれば開くかなあ」
「こっち側から見る限りそれで開きそうだけどな。ならまずドライバーか。――香葵、ドライバーある?」
ドアを叩いていた香葵が手を休めた。拳をさすりながらドライバーはだいたい夏葵が部屋に持ち込んでる、と答えた。つまりこの部屋の中だ。
「万事休す、だな」