銀の魔術師と孤独の影
15.魔術師の部屋 01ぎょっとしたあかりと利が反射的に曲がったばかりの角と電柱の陰に飛び込んだ。
「ちょっ……俺だよ!!」
場違いに明るい声に目を向けると、凪香葵がいた。
「なんでここに」
驚かされたせいもあり、顔を渋くした利が香葵に尋ねる。
「いや、夏葵に言われてさー。どうせ飛び出して走り回ってるだろうから捕まえてストップかけろって。
そこらへんの大きめの道を適当にぶらついていれば見つかるだろうからって」
パシリだよね~、と香葵はのんきに唇を尖らせる。
「で?夏葵はなんでストップをかけたの?」
「あ、それは多分、場所と原因を特定するからだと思う。中途半端に手出したら夏葵キレそうじゃない?
――ってか張本人に聞いた方が早くない?うち、そこだよ」
香葵は首をひねって通りの一角を示した。
一瞬、沈黙が下りた。
「え、そこ?」
「ここって……」
一軒だけ、照明の付いている家。
塀の継ぎ目が見当たらないような気がするのは闇のせいだろうか。
「あのー……大きすぎないか?」
利が本当に一軒なのかいぶかしみつつも香葵に尋ねる。
「あ、うん。掃除が大変。庭とか」
香葵の返事はピントがずれていた。
あかりは呆れて物を言わない。
「この辺りって、町の一等地だろ……何坪あるんだ」
さあねえ、と香葵は興味もないような呟きで門扉を開ける。
玄関の重厚で威圧感を発するドアを、香葵はためらいもなく開いた。
「ん?おいでよ」
さすがにためらうあかりと利を振り返り、香葵は手招きした。
おいでよっていわれても、といったところである。
戸惑いつつも、とりあえず家に上がる。
「親御さんは?」
「親父は本邸。母さんは実家。ここには誰もいない」
「ちょっと待って」
あかりは廊下をすたすたと歩く香葵を止めた。
「じゃあここはなに?」
「別宅だけど」
「別荘?」
「それとはまた違って……別荘は軽井沢とか南の方とか北の方とか」
利の顔が引きつる。いくつあるんだ、と消え入りそうな呟きがこぼれた。
「……金持ちの道楽ね」
多少の嫌味を混ぜてあかりは言ったが、香葵は気にしていないのか気づいていないのか。
「金あるのも稼ぐのも俺じゃないしねー。夏葵なんかは「子供は親の金食い虫」とか言ってるけど……。そうそう、夏葵だ」
ここの部屋、と奥の一角を指差す。
「どこ?」
凪家が金持ちであることに諦めたのか、あかりは香葵のいうドアの前に立った。