銀の魔術師と孤独の影
14.聖の森 01「……寒」
参道の砂利を踏みしめながら、あかりは上着の前を掻き合わせた。
師走後半の夜ともなれば冷え込みもだんだんと増してくる。
道場から上がってきたばかりなので、格好はジャージで、なおさら寒い。
今日からもう年末年始の準備をしているので、帰る先は家ではなく浅井家である。
「一人しかいない巫女なんだから、もうちょっと大切に扱ってよね……」
人使いが粗すぎる、とあかりは一人ぼやいた。
その人使いが粗い浅井家では、利の兄である慧がこまごまとした作業をしていた。
「ただいまぁ」
「ん、おかえりー」
「…………」
となりで課題をこなす利は顔も上げない。
「今度は何やってんの?」
「ああ、こいつ?数学やってるよ。――そんなところ立ってないでコタツ入りなよ」
慧がくじの束を整えながらのんびりと返事をする。
「トモ君は?」
「あいつは合宿」
弟の朋也は明後日まで帰ってこない。あかりは帰ってきたら存分にこき使うつもりでいる。
「あ、そういえば慧兄。この町っていわくつきの出来事とかある?」
「……?どうした急に」
ちょっと、と濁すと慧は作業の手を止めた。
「いわく、なあ……。探せばいくらでもあるんだろうけど……ここ自体がいわくありげだしなあ」
裏山のいわくならすぐに思いつくんだけど、といった慧にあかりは遠慮した。涸れ井戸になんとか、杉の古木になんとか、ならあかりもすべて記憶している。
「すぐには思いつかないなあ……考えておくよ」
「ありがとう、慧兄」