銀の魔術師と孤独の影
13.目覚め 03やる気もなく補習を受けて、やれやれと思いながら、補習が終わった昼に席を立った。
また化学を教えてもらい始めた利を無視し、あかりと言葉少なに階段をおりる。
何やら騒がしい。
「元気すぎ……」
「休みだからって浮かれ過ぎだ」
二人して悪態に近い言葉を言いながら昇降口までおりる。その脇を幾人もの教職員や生徒が駆けていく。それ以外は校内屈指の有名人を避けて歩く。
そのなかに若干の好奇の目が混じっていることが少しばかり煩わしい。
あかりはそんなもの関係ないとばかりに歩く。
「ん、ああ。道理で騒がしいはずだ」
「は?」
ほら、とあかりは校庭の端を指差した。夏葵はそれにつられて視線を上げる。
「何が――」
言葉が途切れる。
古く大きく、明桂学院の象徴とすら思われていた桜の巨木のシルエットが――ない。
夏葵は咲いているのは見たことはないが、咲けばさぞかし立派だろうとは思っていた。
「ついに枯れちゃったんだ。ジジイだったもんね」
その言い草はないと思うが、相当年老いていたことは事実だし、そう思われているように人が集まっている。
「残念。もう見れないのか。さすがに年だったんだ」
「どれくらいあったんだ?」
「樹齢百年はくだらないって有名だったわよ」
すごいな、と夏葵は呟いた。
「……見たかったな」
「写真ならあるよ」
「写真じゃなあ……」
魔術でも霊的には景色を蘇らせることはできるが、いまいち臨場感がない。
「萌芽も期待できないわよね。桜じゃあ」
「そうだな」
校門から離れる。
学校から離れると無意識のうちに入っていた肩の力が抜けた。何だか凝ってしまった。一体なんだったのだろう。
「夢、どうなるのかねー。今度はどう変わるのか」
「とりあえず、何かが関係してもおかしくないように思いつくことは一通りあたってみるよ」
それはご苦労なことで、とあかりが呆れ半分の顔で呟く。
夏葵はもうあかりの性格を知っている。あかりの性格は行き当たりばったりの側面が強い。
「あーあ。でも本当に桜は残念だわー」
後ろ頭に手を組み、あかりは曇り空を見上げる。
その顔に、ひとひら――